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【ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ】危険な子ども達の大ゲンカ

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バカな子どもほど可愛いらしいものだ。そして、バカな大人もまた同様に可愛らしい。

 

「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」には、バカな男たちが次々と登場する。バラバラに見える一人一人の登場人物が少しずつ絡み合い、衝突したりしながら、やがて大騒動へと発展していくような群像劇になっている。

 

登場する男たちに共通するのは、全員が悪党であるということ。

コソ泥に殺し屋、強盗、借金取り、情報通、闇カジノの首領、マリファナの密造家まで、まさに大小様々な悪党たちが入り乱れる。

 

北野武監督の「アウトレイジ」シリーズも、全員が悪党、といった謳い文句で宣伝されていたが、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」には「アウトレイジ」のような陰惨さや重苦しい雰囲気は微塵もない。

 

そこに登場する悪党たちは、どこか憎めない、不器用な悪党ばかりだ。

どうでもいい些細なことに強くこだわってしまったり、出来損ないの部下に振り回されていつも苦労していたり、悪党をやるにはあまりに純粋すぎたりと、どうにも悪事に向かない連中ばかりが登場する。そんなダメダメな悪党たちが悪戦苦闘を繰り返し、金とマリファナと銃をめぐる大騒動を繰り広げるのだから、どう見たってコメディにしか見えない展開を物語はたどっていくことになる。

 

しかし、そこで右往左往している当の悪党たちにとっては、全く笑えない出来事が次々と降り掛かってくる。

泥棒や違法販売で集めた金を元手に、裏カジノで一攫千金を狙う主人公たちのグループ。しかし、裏カジノの首領はやはり上手で、主人公の金をすべて巻き上げ、逆に多額の借金を背負わせる。1週間で返せなければ仲間全員の指を切り落とされてしまうハメになった主人公グループは、隣の部屋に住む別の犯罪グループの計画を盗み聞きし、とんでもない額の金と大量のマリファナを奪うことに成功。浮かれて朝まで飲み明かし、明け方家に帰ってみるとそこにあったはずの金もマリファナも消えていて、代わりに血まみれの死体の山と銃撃戦で荒れ果てた部屋だけが残されていた。裏カジノの首領への借金返済の期限は間近に迫っている・・・・・・。

 

そんな具合に、主人公グループを中心とした多種多様な悪党たちによる、金とマリファナの奪い合いが繰り広げられるのだ。それぞれの思惑が複雑に絡み合い、邪魔しあい、ぶつかり合うスリリングな展開が続き、最後にはいったい誰が勝つんだろう???といった興味をグイグイ引かれて、どんどん物語に引きずり込まれる。特に後半のたたみかけるような展開はすさまじい。反対に、冒頭の20分くらいは少しダラダラしているように感じられた部分があったり、関連性や脈略がなく続くシーンがあったりもした。しかしそれは後々の大きな意味を持つ伏線だったりするので、まあちょっと我慢してみていた方がいい。

 

 

さらに、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」全体を貫いている、なんとも「イカした」感じも大きな魅力の一つだ。

登場人物たちの言動はコミカルでありながら、どこかふとカッコよく見えたりもする。しかし、彼らの振る舞いから醸し出される「カッコよさ」は、カッコいいというより、イカしてる、といった方が適切なカッコよさだ。近い言葉で言い換えるなら「ダサかっこいい」あたりが近いかもしれない。劇中で何度も挿入されるハードロック調のBGMが、そう感じさせる理由かもしれない。

 

そのような「イカした」感じが作品全体を貫いているため、物語の結末は、単純なハッピーエンドにはやはりならない。

主人公たちは大金を手にすることを目的に奮闘するのだが、結局金は他の悪党の手に渡る。金が手に入らなかったということだけ見れば、主人公たち本人たちにとってはバッドエンドである。しかし、作品を見ている立場からすれば、とても清々しく爽快な気分のエンディングになっている。

ネタバレになるため具体的な説明は避けるが、金を得て裕福な暮らしを得るよりももっとカッコいい、それこそまさに「イカした」感じを、主人公たちが失うことなく終わりを迎えることが、とても幸せに感じられるのだ。そのような価値観を、この「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」は作品を通して提示しているように思う。

 

何をするにも上手く立ち回れず、不器用で、失敗ばかりで、ツキにも見放された愛すべき悪党たち。

そんな彼らが繰り広げるドタバタ劇は、まるで銃と刃物を持った危険な子供たちの大ゲンカを見ているよう気分になる。

悪党としてダメであればあるほど可愛らしく見える彼らの必死な姿こそ、最高にイカした気分を味わわせてくれるのだ。